週末の金曜日、一週間の仕事を終えて車で帰宅途中の出来事だ。21:00を廻っていたろうか。住宅街を抜ける幹線の押しボタン式信号が黄色から赤に変わった。時間なりに車の通りも少なく、ここで停車した車は私だけで、他には人影も無い。まぁ、ここまでは、よくある光景だ。
車のヘッドライトがひと際明るく照らす横断歩道を小さな鞄を背負った男の子が右手から渡り始め、数歩駆けだしたと思ったら、急にしゃがみこんだ。どした・・・・どこか具合でも悪いのか?。と思った瞬間、そこから身体はくるりと反転させながら大きく両手を拡げて舞い始め、横断歩道を蝶が舞うように渡り始めた。舞うという表現に相応しい軽やかな動きだ。 ヘッドライトの灯りをあたかも舞台を照らすスポットライト代わりにし、明るく映し出された横断歩道を舞台に見立て、ここは舞うしかないと思ったに違いない。いや、思わず踊りたくなるほどの喜びが今日この子には起こったのだろう。こんな光景をコマーシャルで観たことがあるような気もするが、実際に目の前で起きた光景をたった一人の観客として眺めていることに気が付き、なんだかとても幸せな気持ちになった。ほんの僅か数秒の出来事だったけれど舞台席の最前列で観るワンシーンのようでもあり、見知らぬ誰かの心から湧き上がる歓びの表現が、ほっこりと心を和ませてくれたことが何だか嬉しかった。 その子は、横断歩道を渡り切ると振り返ることもせず、何事もなかったかのように背中の鞄をヒョイと背負い直し、歩幅広く歩き始めた。 車内からだから聴こえるわけもないが、小さな背中にブラボーと声をかけたのは言うまでもない。私がここを通る時間が少しずれていたらこのシーンに出会うこともなかったろうけれど、偶然も重なりのお陰で暫く心が温かかった週末です。
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